INTERVIEW

「空手」という自己表現

本 一将

運命的に出会った「空手」という自己表現

─空手とはどのような競技でしょうか?

空手は沖縄が発祥で、「型」と「組手」という種目があります。型は、相手を想定した上で技を繰り出していく種目。芸術的で、華やかさがあると思います。組手は1対1の対人でポイントを取り合うもので、相手との距離に緊張感があったり、技の出し合いで戦う迫力があります。

─空手を始めたきっかけは、なんだったのでしょうか?

僕が小学1年生の頃に、姉が友達から「空手をやろう」と誘われて、姉についていったのがきっかけでした。遊び感覚で道場に行ったんですけど、見ていて楽しそうで、姉より先にやりたいと言い出しました。
あとからわかったのですが、お父さんも高校·大学と空手をやっていて、僕も通うことになる拓殖大学紅陵高校の空手部1期生だったんです。当時、お父さんは僕に空手をやらせたいとは言いませんでしたが、自然と空手に巡りあうことができて、今思うと運命だなと感じています。

─型と組手という種目がある中で、なぜ型をやろうと思ったのでしょうか?

習い始めたのが型だったのですが、覚えが早いと褒められたのがきっかけだと思います。小柄な体格もあって、組手ではなかなか結果が出せませんでしたが、型は練習するほどレベルアップしていけたんです。
ジャンルは違いますけど、バイオリンとかピアノを弾いている人を見て、自分の好きに表現できるってかっこいいなって思っていました。もともとなにかを表現するのが好きだったので、芸術性を追い求められる型が自分には向いていると思いました。技が自分のイメージ通りに、針の穴に糸を通すような感覚で出せたときは、今でも嬉しくなります。

努力の先に掴んだ全国優勝

─世界で活躍されるようにまでのステップについて教えてください

小学生のときは全国大会に出場しても4年連続でベスト16止まり。僕に勝った相手が4連覇していたのがすごい悔しくて。学校から帰ると、すぐ道着に着替えてリビングで練習してました。テンション上げるために道着の着方からかっこよくしてみたり(笑)。友達と遊ぶのも控えて練習を重ねたら、6年生の関東大会で初めて優勝できました。それを機にもっと頑張ろうと思えて、翌年の全国大会では優勝でき、空手が大好きになっていきましたね。
中学校では、3年生になって空手の4流派が集まる大会に出たのですが、レベルの高さを痛感しました。高校では絶対勝ちたくて、強豪の拓殖大紅陵高等学校に入学しました。
団体では優勝できましたが、親に全国優勝すると言ったのに、どうしても個人では勝てなかった。高校でやりきったら、大学では空手は遊びで…と思っていたけど、やっぱり悔しくて、型も組手も強い帝京大学に進学しました。
大学では、周囲のレベルの高さはもちろん、「体が小さいから見劣りする」とも言われ、落ち込みましたね。でも何か自分の良さがあるんじゃないかと、悩みながらもひたすら努力しました。基本の練習を大切にしていたら、少しずつ大会にも出られるようになり、やっと2年生の団体型で大学日本一になれました。そうしたらもっと欲が出てきて(笑)。次は世界で勝ちたいと思い、さらに練習を積んでナショナルチームに入ることができ、世界大会に出場することができるようになりました。僕の型で観客から拍手をもらえて、もっと型が好きになりました。
今は世界で勝つ姿を親に見せたいと思っているので、世界一の喜友名先輩に勝てるように、日々練習をしています。

─悔しさや悩みが本選手にはエネルギーになってきたのですね。空手を続けてこられて、得たものはなんでしょうか?

忍耐力や礼儀はもちろんですが、一番の学びは「目標に向かって努力する過程」の大切さです。空手を続けてきてよかったと思うのは、努力が苦じゃなくなったことかなと思います。きつくて疲れますが、加減したくなる自分に勝って常に全力で練習するよう心がけています。その中でうまくいかないことが出てきたら、基本動作に戻って、突きや技、足腰の強さを再度意識して練習するようにしています。今は空手だけに真面目に向き合っていますね。

日本人らしさを活かして世界の舞台へ

─空手がオリンピック競技として採用されましたね。

オリンピックの種目に決まり、空手を知ってもらえる機会が増えて嬉しかったです。
オリンピック種目になって競技自体は盛り上がっていますが、僕は世界で戦うのが好きなので、オリンピックだけを目指しているわけではありません。今は、国内で3番手なので出られる大会は限られているんですけど、派遣される大会が増えるように、そして、ひとつでも多く優勝して上位選手と勝負できるように、目の前の試合に勝つことが目標です。

─世界で戦い続けていたいのですね。

海外の大会は、いいところをいいと評価してくれる傾向があります。チームメイトでもないし、国も違うのに、いい技やいい型が打てたら歓声をくれるんです。僕にとっては、思い切り自分を表現できる場です。

─海外選手に対して、どんな印象を持っていますか?

筋力が桁違い。日本人だと、しっかり緩急を意識しながらパワーを出すんですけど、外国選手はパワーだけでも強さが表現できる。日本人は、パワーでは劣る部分もありますが、繊細に体を動かせる印象です。基本がしっかりしているので、上半身と下半身の動きを連動させ、足から拳先までしっかり力を伝えられていますね。

空手は人生そのもの

─本選手の型の見どころはどこでしょうか?

体格は小さいのですが、型をやっているとすごく大きく見えるとよく言われます。ダイナミックな技ができるのは魅力かなと思います。

─本選手にとって、空手とはどんな存在ですか?

僕にとって空手は、ずっと小さいころからやっているので人生そのもの。体が動く限り、いい技が出せている限り試合に出ていきたいです。何をきっかけに終止符を打つかは、まだ考えていません。今のところは、生涯現役です。

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