INTERVIEW

生きたい明日を届けたい

上条百里奈

生きたい明日を届けたい

─介護士の道に進もうと思われたのはいつ頃からですか?

もともと3歳から看護師に憧れていて、小学校のころは図書館に行って、ナイチンゲールとマザーテレサの本ばかり読む子どもでした。けれども中学2年生の職業体験学習で、たまたま老人ホームに行ったことで介護に興味を持ったんです。
そこで老人ホームで暮らしている高齢者に感銘を受けて、だいすきになって。ボランティア活動で毎週通うようになったのがきっかけです。

─高齢者の方に興味を抱かれたきっかけを教えてください。

そう思うようになったのは、職業体験学習で1人のおばあちゃんの食事介助をするように頼まれ、生まれてはじめて食事介助をさせてもらったことからでした。
そのときに職員さんに言われたのが『みなさん元気そうに見えるかもしれないけれど、ご高齢なので、もしかしたらこの食事が最後になるかもしれないんです。だから大切に介助してくださいね。』でした。
いざやってみると難しくて、結果的にごはんの半分はおばあちゃんの口に入らず、半分は床と机の上に落ちてしまいました。それを見て、なんて大変なことをしてしまったんだろう。最後の食事かもしれないのに。きっと私だったら、この状況を見たときにきっと怒っていただろうなって思ったんです。
それなのにそのおばあちゃんは『おねえちゃん、ありがとうね。おいしかったよ。』って優しく言ってくれて。
こんなに心の広い、懐の深い大人っているんだなって思ったことが高齢者にまず興味を持ったきっかけでした。

─命を救う仕事としての介護福祉士、と思われた経緯について知りたいです。

介護施設にいるおじいちゃんおばあちゃんたちは命こそ救われているんだけれども、生きたい明日を持っている人がほとんどいなかったことが衝撃的で。そのときに、医療っていうのは命の半分しか救うことが出来ないんだなって思って。それならもう半分を私が『介護』をすることで救えるチャンスが一番あるんじゃないかなって思い、この道に進みました。

『ありがとう』と言わせない

─介護を実際やってみると全然出来ず、それが1番ショックだったそうですね。

介護福祉士の資格を取ったときに、もう資格が取れたし学んだから、介護が出来ると思っていたんですけど、実際やってみると全然出来なくて、それが1番ショックでしたね。
介護の知識がいくらあっても技術がいくらあっても、人って介護出来ないんだなっていうのを体感しました。

─介護をするにあたり葛藤はありますか。

おじいちゃんおばあちゃんの介助では、自分では取れないお水を取って差し上げたりとか、自分では出来ないごはんを口に運んであげたりとか。また排泄とかお風呂とか、人として当たり前のことしか私たちはサポート出来ないんです。
それに対して『ありがとう』を言われてしまうと、なんかちょっと違うなって思っていて。

─どのような想いで介護をされていますか?

このおばあちゃんたちは死ぬまでに私にあと何回ありがとうと言わないと生きてけないんだろうと思うと、わたしの目指す介護じゃなくなっちゃうから。ただ、幸せに今まで生きててよかったなと思ってもらうことがゴールだから、そこで毎回毎回ありがとうをもらっちゃうと、そこまでの介護しか出来ていないんだろうと思うから、ありがとうと言わせないような介護が出来るといいと思ってます。

介護の現場ではなく、とりまく社会環境を変えたい

─寝たきり=仕事が出来ないという時代は終わったとのことですが。

私の友達には寝たきりの障がい者がたくさんいて、寝たきりで身体は動かない人もいます。
でも現代のテクノロジーをうまく活用することで、寝たきりでずっとおうちにいる、それでも遠隔で就労してオフィスに出かけて収入を得るという生活をしているので、もう昔みたいに寝たきり=仕事が出来ないという時代は終わって、寝たきりでも身体がどんなに動かなくても社会の役に立てる時代になっているんです。

─現在の社会の課題はどのようなものだと思われますか。

介護にまつわる課題として、おじいちゃんおばあちゃんたちは介護の保険制度も介護サービスも知らないし、色んなSOSも出せないので手遅れな状況、状態で初めて介護施設に来ることが結構多いんです。
そんなとき、私は何も出来なかったことがすごく悔しいんですけど、そもそもこんな状況ではじめて介護の手が入るのかということに問題意識があって、なんでもっと早くSOSが出せなかったんだろうとか、なんでもっと地域の人があのおばあちゃん介護必要だよね、相談してるかなとか、そういうコミュニケーションがとれなかったんだろうとか、そういうところに問題意識というか、そこが解決されないと変わっていかないんだろうなと思っています。

─上条さんが考える、介護に必要なスキルとは?

私たちがいくら介護のスキルを上げても、介護の技術を上げても、本当に届けなければいけない方に届けなかったらなんの意味もなくなっちゃうので、介護の現場を変えたいというよりは、介護をとりまく社会環境の方を変えたいと思ったときに、多くの人に伝えたい、介護を伝えたいと思って、モデルになって、たくさんの人に聞いてもらえるチャンスが欲しいなと思い、モデルを今もやっています。

私が届ける介護

今って日常生活しか介護のケアプランに入っていないんですけれども、そのケアプランの中にそろそろ就労というのを入れてもいい時代なのかなと思っていて。
おじいちゃんおばあちゃんで介護を受けているんだけれども病院にいる、施設にいる、だけれども就労をしているという時代になってくるのかなと思っているから、それって今やれる専門職って存在しないんですよね。
ということは介護福祉士がやるべきところかなと思っていて。
でも介護福祉士は介護の勉強しかしないから、今は繋がっていない状況ですごく勿体無い。なので、社会のこととテクノロジーのこと、双方から情報をアップデートしていくことで、はじめて繋がるのかなと思うっています。
だから私はモデルの仕事、地方での講演会、東京大学の研究員、介護系の商品開発もしているんですが、この先、介護福祉士の働き方がこれからどんどん変わる時代かなと思って楽しみにしています。

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