INTERVIEW

世界一クリエイティブな花屋

清野 光

震災がきっかけで「自然を愛せる人になる」と決めた

─清野さんは普段、どんなお仕事をされていますか?

フローリストとして花のアレンジメントのギフトを手がけたり、ブライダルなどの装花を行っています。花を使ったイベントや、海外に向けたフラワーデモンストレーションライブも催していて、2014年6月からは、花をお客様の頭に飾ってスタジオで撮影する『HANANINGEN PROJECT』という、花と人の関係作りをスタートしました。

─なぜ、フローリストになろうと思われたのですか?

若い頃から、かっこいい大人に憧れていて。でも、それはどんな人だろうと長年考え続けて、答えが明確に出ないなか、東日本大震災が起きたんです。社会が悪い、あの考えはおかしいと他人を責めてもどうにもならない状況を目の当たりにして、自分が目指す大人は「自然を愛し、安心できる世界をつくる人」だと気付きました。「周りがどうあっても、僕は地球のために行動している」そんな信念を持って、自立した大人になろうと思いましたね。いざ、自然を愛せる人になると決めたものの、当時は、植物に対してなんの感情もなかったし、土が生きているなんてもちろん思わなかった。まず、植物や生き物に自分から関わる必要性を感じ、花について学びはじめたんです。

自然を大切にしない限り、人間の未来もない

─今のお仕事を始める転機となった出来事はありますか?

ありましたね、震災後、バンクーバーで生活したことです。1年半の間、花屋さんで働き、山登りをしていました。とにかく、自然が美しいんですよ。偶然の出会いで、ファッションプロデューサーのアシスタントにもなったんですが、周囲の優秀なデザイナー、アーティストから必死で勉強しました。フラワーデザイナーとして、ブライダルやファッションに絡めた花の仕事をする際に、そのときの学びが生きています。バンクーバーではとにかく、自然の力の大きさを感じました。カナダの山々で、自分の肩に乗る鳥やリスを見ていると、お互いが対等な生き物なんだという、当たり前のことを学んだ気がします。自然を大切にしない限り、人間の未来もない。ただ「環境を守ろう!」と声高に言う気はなかった。まず、身近な自然である花の美しさや力を知ってもらえれば、おのずと自然を大切にする気持ちも湧くはずだと思ったんです。

─帰国してから、どんなことをしましたか?

地元の札幌に「GANON FLORIST」という花屋をオープンしました。花屋を開きたいという思いは、正直そんなになかった。僕には、世界を平和にしたいという、大それた、でも大切な目標があります。人間と自然の関係を深める場がないと、世の中がおかしくなるという危機感があって、それが、花屋という形だっただけなんです。でも、当たり前だけど、そんな目標いきなり周りの方に伝わらないですよね(苦笑)。最初、お客様が全然いなくて、誰からも花は遠い存在のまま。そこで「お花を家じゃなく、自分に飾ってみませんか」と『HANANINGEN PROJECT』というプロジェクトを始めました。自然と一体化した美しい姿を撮影することで、お客様の頭の中に、花の存在を刻みたかったんです。だんだんとお客様が増え、ある方から「今回使われた花の名前は、絶対に忘れません」という言葉をいただいたときに、HANANINGENを続けることで、自分の想いが実現できるかもしれないと感じました。自分の好きな花を見つけた人は、今まで気にも留めなかった花の存在にもきっと気付き、自然へのまなざしが変わる。HANANINGENで視界が変わったお客様、そして僕と同じようなことを考えている人と手を取って、平和な世界を実現したい。誰とも戦わず、黙々と花を植えていくことが、僕の役割なんです。

花のイメージを常識から解き放つ

─『HANANINGEN PROJECT』のお客様を表現した「発芽」という言葉が印象的ですね。

お客様と自然が一体化する様子を見て「発芽」という言葉を使ったら、SNS等に写真をアップする際に「発芽しました」と書かれるお客様が増えたんです。スタジオには、余命わずかの方、病気等で髪を失った方、悲痛にくれる方も訪れます。お客様と、花を選びながらお話すると、こんなにも心がすり減ることがあったんだと知ったり、命の儚さを感じることもある。花に触れ、まるで自分が美しい花を芽吹かせているような写真を見て、元気が出たり、穏やかな気持ちになってくれたらいいなと思います。「発芽」をきっかけに、葬儀のお花を自分で選ばれた方もいるんです。「仏花イコール菊」みたいな常識から解き放たれて、自分の感性で自然を愛せる人を増やすことができる。お花屋さんって、いい仕事だなと思います。

─わずか3年で全国8店舗。『HANANINGEN PROJECT』は順調に拡がっていますね。

ああ、本当は、もっと拡大してると思ってたんですよ(笑)。社会に必要な事業だと確信しているし、全力を投じているので、身近な問題で揉めると「こんな場合じゃないのに」と歯がゆさを感じていました。今は、その小さな問題を解決することも大事なんだってわかっていますが、若い頃に描いた30歳の自分はもっとすごかったな。世界はもっと平和でした(笑)。自然を大切にしないと、とんでもない事態を引き起こすという直感は、感じられている方も多いと思うし、花を贈る文化は世界中にある。なのに、自分の胆力や知識不足が原因で、スピード感はまだまだです。とはいえ、この数年で海外進出を実現できる段階まで来られたのは、人との出会いに恵まれたからに尽きます。これまで数多くの方々から支援してもらい、尊敬する方々の影響のもとで動けたのは幸運だったと思います。

「世界は楽しい」ということを次世代に見せたい

─ちなみに、どんな人を尊敬されているのですか?

まずは、ライト兄弟ですね。誰も見たことのないゴールに向かって、毎日試行錯誤して「明日、飛べるかな、飛べないかな」と言い合いながら、夜ごと乾杯していただろうな。その光景を想像するだけで、イライラするくらいうらやましい(笑)。僕の精神面に大きな影響を与えてくれたのは、建築家のガウディです。今はガウディ財団とも仕事をしていますが、生きている間に何を残せるかを常に考えていた彼を敬服しています。僕、人のことを尊敬しやすいんです。人のいいところ泥棒です(笑)。

─この先、実現したいことを教えてください。

そうですね……一言でいうと、恩返し。どれだけ恩返しができるかは、お世話になった方々にどんな地球を残せるかだと思っています。今の活動が、多くの地域で根付いてほしい。なるべく生き急いで、プロジェクトを大きく拡げて、自己満足の世界を脱したいです。もうひとつは「世界は楽しい」ということを、次世代に見せられる大人になりたい。固定概念は捨てて、誰かの笑顔をつくるために動くことが仕事だし、それはとても楽しいことなんだと伝えたいですね。

せいのひかる…1987年5月13日生まれ/北海道出身。GANON FLOROST代表。世界一花を愛せる国を作るフローリスト集団を作り、もう一度心から安心できる世の中と花から伝わる心作りのメッセージを社会に届ける。自然との関係性をもう一度作る事で世界中にある自然の価値、物の価値、人への価値を一から見直し、心に想いやりのある環境を作る事を理念に作りあげた活動。花束、アレンジメント、花を頭に飾る事で花の名前をまず覚えてもらう事、普段関心のない道草や動物、生命と人の心を繋げる事を信じ伝承伝達を続けている。

SHARE